恐るべし「中国の対日攻撃の情報戦略」        
~産経ニュースが報じる「米国にいる日本攻撃の主役」~

 8月31日付の産経ニュースは、「米国にいる日本攻撃の主役」と題して、米国カリフォルニア州やニュージャージー州などで慰安婦碑を建てている韓国系組織の背後で、中国系在米反日組織の「世界抗日戦争史実維護連合会」(抗日連合会)が暗躍していることを報じている。 【詳細を見る】  

1.慰安婦の碑を立てる運動の主役は反日韓国系組織と思っていたが
 拙稿「22.『慰安婦の碑』を全米各地に建てようと目論む韓国」でも詳述したが、米国における「慰安婦の碑」設置運動は反日韓国系組織の運動であると理解していた。ところが、上掲産経ニュースを読んで、改めて中国の対日情報戦略の恐ろしさを実感した。
 勿論、前面に立って「慰安婦の碑」設置運動を展開しているのは反日韓国系組織である。マスコミが報じる7月30日の米国カリフォルニア州グレンデール市内に設置された「慰安婦の像」と記念撮影をしている韓国人らの写真を見ると、誰もがこの運動の主役は韓国系組織であると思ってしまう。
 しかし、真の主役は中国系組織、いや中国であった。中国系組織は、自ら表には出ないで、反日運動のノウハウを韓国系組織に教え、背後で操っている。こうした間接情報戦は、中国が最も得意とする戦術である。司馬遷の『史記』、『三国志演義』、『水滸伝』などの中国古典を読めば、物語の勝者が覇権を握る戦いに、民衆に対する情報戦(「心理戦」「宣伝戦」ともいう=プロパガンダ)を重要な戦術として用いたことがわかる。今の中国共産党がこの戦術を利用しないわけがない。
 『ザ・レイプ・オブ・南京』の著者アイリス・チャンは、1944年に米国サンノゼ市近郊で中国系団体「世界抗日戦争史實維護聯合會」が主催した集会に参加したときに、会場に展示されていた日本軍による残虐行為とする写真を目にして衝撃を受け、本書の執筆を決意したとされている。しかし、米国の日刊紙「サンフランシスコ・クロニクロ」は、彼女が主に世界抗日戦争史実維護聯合會を含む反日組織の活動家なのか、歴史家なのかが不明であり、中国および中国系アメリカ人の団体のチラシ配布の代行者であるように見えると論評している。いずれにしても、この著書出版の背後に中国が「情報戦」の一環として関与していることは疑いがない。
 「中国人民解放軍政治工作条例」という規定があるが、これは中国の人民解放軍の政治工作を規定したもので、中国軍の各部隊は、この条例に基づいて作戦を実施している。この規定の中に「三戦」の任務を中国軍に与えることが明記されている。


2.「三戦」と「世界抗日戦争史実維護連合会」(抗日連合会)の活動   
 『平成21年版防衛白書』によれば、三戦(さんせん)とは、下記の世論戦(輿論戦)、心理戦、法律戦の3つの戦術のことである。つまり、  
とされる。
 そこで、中国系在米反日組織の「世界抗日戦争史実維護連合会」(抗日連合会)は中国共産党または人民解放軍の直接又は間接的な指導の下で活動しているが、その主な活動には次のようなものがある。

(1)『ザ・レイプ・オブ・南京』の出版協力と宣伝
 アイリス・チャン著『ザ・レイプ・オブ・南京』の中で用いられている偽造写真、史実の偽造は中国共産党及び人民解放軍の然るべき機関の協力なしでは不可能であった。また、この本が出版されたことで、それまで米国社会で圧倒的であった「大量虐殺の国・中国」のイメージが「南京大虐殺」による日本への悪イメージの転換に成功した。中国は、見事に国際世論を自国に有利な方向に導いたのである。

(2)戦争犯罪と矯正国際会議
 東京で1999年12月10日から12日にかけて、東京ウィメンズプラザと社会文化会館で開催された「戦争犯罪と矯正に関する国際市民フォーラム(International Citizens' Forum on War Crimes and Redress)」を共催した。この会議では南京大虐殺と慰安婦問題について研究と議論がなされた。

(3)戦時強制労働の対日賠償請求運動
 戦時強制労働の対日賠償請求運動(対日集団訴訟)を支援し、1999年9月9日に抗日連合会は強制労働を強いられた元米兵・中国・朝鮮人ら約500人が日本企業1000社に対して損害賠償を求める集団訴訟を行うと発表した。その後、元米兵、韓国系アメリカ人、元英兵らが三菱マテリアル、三菱商事、太平洋セメント、石川島播磨重工業、住友重機械工業(訴状で日本に強制連行された朝鮮人総数は約600万人で、約150万人が日本本土に連行されたと主張されたなどが訴えられた。 また、2000年5月16日には韓国人とフィリピン人グループらが日本企業27社を提訴、原告集団は数十万人にのぼった。2000年8月22日、中国人が三菱グループをロサンゼルス郡上位裁判所に提訴し、原告集団は数十万人となった。  サンフランシスコに本部を置く国際NGO「アジアでの第二次世界大戦の歴史を保存するための地球同盟」やワシントン慰安婦問題連合Incも、これらの対日集団訴訟を支援した。ワシントン慰安婦問題連合Incは2000年12月の東京での女性国際戦犯法廷にも関わり、抗日連合会と同じく『ザ・レイプ・オブ・南京』の宣伝販売を支援した。また、集団訴訟の原告側の弁護士は2001年春に上海で開かれた慰安婦問題シンポジウムに参加している。

(4)慰安婦訴訟
 2000年9月18日、第二次世界大戦中に日本軍に慰安婦にさせられたとする在米中国人や韓国、フィリピン、台湾人女性ら計15人が、日本政府を相手取って損害賠償請求の集団訴訟をワシントン連邦地方裁判所で起こした。日本政府は「日本国との平和条約サンフランシスコ講和条約)での国家間の合意で解決ずみ」としてワシントン地裁に訴えの却下を求めた。
 2000年9月21日、サンフランシスコ連邦地方裁判所は「日本国との平和条約において請求権は決着済み」「追加賠償を求めることは同条約によって阻まれている」として元米兵や元連合軍人らの集団訴訟12件に対して請求棄却した。集団訴訟の請求内容が日本国との平和条約に密接に関係するため、サンフランシスコ連邦地方裁判所のボーン・R・ウォーカー判事が「アメリカの連邦法や条約に関わる訴訟は連邦裁判所が裁判管轄権を有する」として27件を一括処理した。ウォーカー判事は、元軍人による13件の訴訟については、日本国との平和条約14条に抵触することは明白とし、さらに原告が日本国との平和条約26条について「日本は他の六カ国との協定で賠償責任を認める好条件を出したから、連合国国民も請求できる」と主張した件については「26条の適用請求を決定するのは条約の当事者である米国政府であって、原告個人ではない」と却下した。他方、中国・韓国人・フィリピン人らの集団訴訟には他の争点があるため審理継続とされた。しかし、慰安婦訴訟は2006年2月21日にアメリカ合衆国最高裁判所が却下の最終司法判断を下したことで、米国の司法当局および裁判所が日本軍慰安婦案件については米国で裁くことはできなくなり、また米国で訴訟を起こすこともできなくなった。これらの集団訴訟に際してアメリカ合衆国政府・国務省・司法省は一貫して「サンフランシスコ平和条約で解決済み」との日本政府と同じ立場を明言した。ただし立法府(議会)はこの限りではないため、その後も下院などで非難決議が出されている。

(5)中国政府との連携
 2002年2月には上海で中国政府が開催した「第2次世界大戦の補償問題に関する国際法律会議」にも参加しており、中国政府との連携が明白となった。

(6)日本の国連安保理常任理事国入りに反対する署名活動
 2005年には日本の国連安保理常任理事国入りに反対するために全世界で数千万人の署名を集めた。

(7)カナダ教科書への南京大虐殺記載運動
 2005年、カナダ支部の「カナダ抗日連合会」のロビー活動の結果、カナダの教科書に南京大虐殺がナチスによるユダヤ人ホロコーストに並んで記載されるようになった。

(8)対日謝罪要求決議の採択運動
①アメリカ合衆国下院

 2007年1月末に民主党のマイク・ホンダ下院議員らが慰安婦問題に関する日本への謝罪要求決議案を提出し、2007年7月30日、日本は慰安婦制度によって「20世紀最大の人身売買」を行い性奴隷としたとして日本に謝罪を要求したアメリカ合衆国下院121号決議が可決された。抗日連合会はマイク・ホンダ下院議員に多額の政治献金をして、決議採択に際して中心的な役割を果たした。マイク・ホンダは米国議員のなかで最も多額である13万9,1549、ドルの政治資金を集めたとも報道されている。しかし、決議採択直後の2007年8月末、マイク・ホンダ議員が中国系アメリカ人のノーマン・スー(徐詠芫)から資金提供を受けていたことが発覚し、謝罪した。抗日連合会の他にも、在米韓国人によって全米各地に設立した慰安婦謝罪決議案採択のための対策委員会などの韓国系アメリカ人によるアメリカ下院議員へのロビー活動も決議採択にあたっての役割を果たした。日本政府も採択阻止のため4200万円かけてロビー活動を展開したが、失敗した。その後、対日謝罪要求決議は世界各地で波及し、2007年9月20日にオーストラリア上院、11月20日にオランダ下院、11月28日にカナダ下院で対日謝罪決議が採択された。
②カナダでの対日謝罪決議採択活動
 カナダの決議案では「日本政府は日本軍のための『慰安婦』の性的な奴隷化や人身売買は実在しなかったとするような主張は明確かつ公的に否定していくこと」と明記された。カナダで対日謝罪決議を推進したのは野党の新民主党の中国系女性議員オリビア・チョウ(鄒至蕙)であった。カナダでの決議採択は2007年3月27日に国際人権小委員会で賛成4票、反対3票で可決、次にカナダ下院外交委員会で5月10日に審議されたがカナダ保守党議員らが「日本への内政干渉だ」「日本はすでに謝罪している」と反対、再調査として差し戻された。以降、カナダALPHAの活動は過激化し、カナダ全土の中国系住民をはじめ韓国系・日系住民を動員し、「トロント抗日連合会」、「ブリティッシュコロンビア抗日連合会」などの組織を編成、セミナーやロビー活動を展開した。
 2007年10月4日から6日まで米国ロスアンジェルスで開催された世界抗日戦争史実維護連合会主催の日本糾弾国際会議でエニ・ファレオマバエンガ米国下院議員が「今後は女性の弾圧や人権の抑圧に関して、日本の慰安婦問題から次元を高めて、国際的な条約や協定の違反行為へと監視の視線を向けていくべきだ。日本ばかりを糾弾しても意味がない。日本にいまさら慰安婦問題などで賠償を払わせることはできない」と主張したが、「カナダ抗日連合」議長セルカ・リットは「日本国民の意識を高めるために日本政府を非難し続けることの方が必要」と反論、同会議の声明では日本のみを対象とした謝罪賠償が要求された。
 その後、2007年12月13日にEUの欧州議会本会議、2008年3月11日にフィリピン下院外交委、10月27日に韓国国会は謝罪と賠償、歴史教科書記載などを求める決議採択、11月11日に台湾などが対日謝罪要求決議を採択した。これらの決議を採択した国はサンフランシスコ講和条約締結国を多く含み、また朝鮮戦争に国連軍として参加した国も含まれ、韓国軍慰安婦を活用してもいた。古森義久氏や渡部昇一氏は東京裁判やサンフランシスコ講和条約で日本軍の戦争責任や賠償は終わっており、講和条約以前のことを持ち出すことは国際法違反と批判している。政策研究大学院大学教授の北岡伸一氏も「21世紀の人権感覚を過去の歴史に適用するのは、いかにも乱暴」と述べている元外交官の東郷和彦も、戦後日本の法的秩序を全壊させかねないような過剰な「法的責任の追求」は遠慮してもらいたいと述べている。

(9)抗日連合会の今後の活動に関する声明
 2009年5月、ロッキード・マーティン社の技師だったピーター・スタネクが会長に就任し、初の非中国系会長となった。しかし、イグナシアス・ディンが副会長を務めており、古森義久氏は「中国系団体」の印象を薄めるために非中国系のスタネク氏を会長に起用した」とみている。スタネク会長は会見で今後の活動目標として次の三つを発表した。

1.活動目標は第二次大戦での日本軍の残虐行為への日本政府の謝罪とその犠牲者への賠償の獲得とする。
2.日本軍はアジア全域で合計3000万人の非武装の民間人を殺した。
3.日本軍の「性の奴隷」の慰安婦は朝鮮と中国でそれぞれ約25万人ずつが徴用された。


3. 抗日連合会に対する評価と今後日本は如何に処すべきか
 京都大学名誉教授の国際政治学者中西輝政氏は、抗日連合会の対日戦略の基本方針はアジアでの中国の覇権を確保するために日本の力を何があっても阻止するというもので、日本国内でも憲法9条改正の阻止、従軍慰安婦問題・南京大虐殺・靖国神社問題などで戦争責任を繰り返し日本に叩きつけ、また米国をはじめとする世界各国での反日プロパガンダによって日米分断させ、日本の孤立化と弱体化をめざす団体であると評している。
 また、古森義久氏は、この反日組織は日本の戦争犯罪を誇張し、日本の賠償や謝罪の実績をなかったことして非難を続けるとした。さらに、対日攻撃の手段が米国での訴訟やプロパガンダであり、慰安婦問題訴訟はその典型であり、「米国での日本糾弾は超大国の米国が国際世論の場に近いことや、日本側が同盟国の米国での判断やイメージを最も気にかけることを熟知したうえでの戦術だろう」と評している。
 さて、中国の対日攻撃の情報戦略は実に恐るべしである。わが日本は中国や韓国との情報戦に完全に遅れをとっている。では日本はどのように対処すべきか。
 国家基本問題研究所・理事長の櫻井よしこ女史は、「日本は国際社会の会津藩になるのか。日本の行く手には、中国などの巧みな情報戦で築かれつつある厚い壁がある。汚名を返上しようとする度、壁が立ちはだかり日本は21世紀の国際社会で孤立させられるのか。こんな不安を拭い切れない。」と問題提起をし、「中国は潤沢な予算を欧米のシンクタンク、大学などに寛大に配布する。結果、中国研究者がふえ、中国への親しみと中国の歴史観の受容と理解が深まる。日本研究者の数が先細りし、日本の価値観や考え方への理解者が減り続けているのとは対照的である。中国はまた全世界に孔子学院を創設中だ。約1年前には中国版CNN「CCTVアメリカ」も開いた。本拠地をワシントンに、スタジオはニューヨークのタイムズスクエアに、中国人は極力表に出ずにキャスターは米国人、だが伝える情報は中国の視点に基づくものだ。曾虚白がティンパーリーらを利用した手法に通底する。日本は諦めずにこの情報戦に食い込んでいかなければならない。まず対外広報の根本的見直しと充実である。その上で長期の情報戦略に取り組み始めることだ。日本は戦後真の意味の軍隊を喪(うしな)った。そのうえ情報機関も喪った。まともな国家は必ず備えているこの2つの組織の立て直しに、順風満帆ないまこそ、安倍首相は静かな決意で取り組み始めてほしい。」と締めくくっている。(産経ニュース「情報戦 日本に厚い壁」) 
 情報は収集しただけでは意味がない。それを分析し、国益のためにどのような対処方法があるかを考え、それを実行に移して初めて情報機関の価値が生じる。外務官僚任せでは中国や韓国との情報戦には対抗できない。資金は政府が出して、NPO形式の組織を充実させる手もある。また、官民を問わないが、かつての大日本帝国陸軍大将・明石元二郎のような、国際舞台で通用する諜報活動要員の育成も必要ではなかろうか。
 武器を使わない「情報戦」という戦争は日常休みなく行われている。 これを軽く見ると、その国家の将来は長くない。

(2013.08.31 編集・加筆:石戸勝夫)

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